本人の意思を尊重すること

私の信条

いま福祉業界で話題の「意思決定支援」について今回もお話しします。このトピックは、障害者権利条約の「私たち抜きに私たちのことを決めないで」というスローガンを端緒に日本の社会福祉業界にまたたく間に広まりました。それに加え、本来、判断能力が低下した人を護るべき成年後見制度が認知症の方、障害をもった方の希望を尊重しているとはいえないという批判が10年以上前からありました。必然として福祉サービスの利用者の意思をいかに決定するかが、現在の福祉のメインテーマになったのです。

意思の決定など容易なもの・・・というわけにはいきません。なにしろ福祉サービスの利用者は会話自体ができない人もいますし、なにが希望なのか伝える力がない人もいます。私たちだって自分の希望と真逆のことを言うことがありますよね。たとえば、病気で寝たきりになったとします。本当は自宅で過ごしたいのに世話をしている家族のことを思い、「老人ホームに入る」と口にしてしまうかもしれません。

はたまた、自分に不利益な意思決定をする人もいます。年金生活なのに現役時代の生活感覚が抜けず、高級な食事をする人。不衛生なごみ屋敷での生活を自ら選び取る人。

一口に意思決定といってもどのように意思を汲み取るかが問題ですし、その人に不利益な意思決定をそのまま認めてしまうことは支援者としてあってはならないことです。この辺りをどうするかが、かつては福祉職員の腕の見せ所でした。

上記のような利用者の意思が問われる現場では、いままではその支援が各支援者の判断に委ねられていました。属人的で恣意的な支援だったのです。しかし、それを「意思決定支援」という確立された方法論を用いて対応していくことがトピックの主眼なのです。

日本社会福祉士会が示した意思決定支援の基本姿勢を以下で示します(日本社会福祉士会「意思決定支援見える化シート」より)。

① 意思決定の主体は本人です。意思決定とは、本人が自分のことを自分で決めることです。

② 支援者が代わりに決めたり、良いと考える方法を強要したり、決めることを強制したりしません。

③ 本人を中心とした話し合いになるようにします。話し合いの内容は記録します。

④ 話し合いで決まったことを実行してみて再度話し合い、より良い方法がないか見直します。

⑤ 一度の話し合いで結論を出す必要はありません。必要に応じて話し合いを繰り返し行います。

いかがでしょうか。本人の希望に寄り添い、考え抜く姿勢が示されています。本人中心主義として支援者が代行的に決めることがないよう念が押されています。また決定を無理強いすることも否定されていて、本人を含めた複数の関係者との話し合いを繰り返すことが総合的な関わりとして表現されています。

とはいえ、これだけではなかなか現場での対応は困難です。次回、意思決定支援に係るさらなる具体的な方法論をお話しします。