緊張の訪問介護 その1

医療・福祉

2022年2月9日、朝日新聞の朝刊10面「声 オピニオン&フォーラム」に「どう思いますか 緊張の訪問介護」という記事が掲載されていました。

昨年の秋に「介護もう限界 誰に相談すれば」という認知症の母親を一人で在宅介護している女性の投稿記事があったそうです。そこには、在宅介護を支えてくれるはずのヘルパーの訪問に緊張し、葛藤する日々が綴られていたとのこと。これに触発され、朝日新聞は「緊張の訪問介護」をテーマに読者に投稿を呼びかけました。すると訪問介護だけではなく、訪問系の在宅福祉サービスに関する不満とも苦言ともいえる意見が続々と寄せられました。要するに「ヘルパーを利用したら、逆に疲れてしまう」という内容の投稿です。「ヘルパーさんがくるから掃除しなきゃ」という笑い話も紹介されています。

前置きが長くなりましたが、今回と次回で「緊張の訪問介護」をテーマに福祉サービスと制度利用の関係を論じます。

さて、朝日新聞でこのように紹介された投稿ですが、事実確認が不明確な経験談もありました。また訪問系サービスのいかなる点に緊張してしまうのかはっきりと述べられておらず、「あのヘルパーとは合わない」、「ヘルパーがなにもしない」と情緒的に語られている部分もあります。

こういった投稿が「まさに現在の福祉の姿だ!」と一般読者に受けとめられてしまっては福祉関係者としては困ります。

認知症患者の家族会の理事の方も論評を寄せているのですが、福祉サービスが家族の幸せを損なってしまうときがあるという意見です。もっと介護家族支援を充実させるべき、という指摘をしています。

「緊張の訪問介護」のような言説が社会に流布すると、おおよそのヘルパーは介護者家族に合わせようとせずに自分のやり方を押しつけてくると一般の人が考えてしまうかもしれません。はたまた「ヘルパーなんて利用してもどうせ何もやってくれない」と思い込んでしまうかもしれません。

一方で、以前から福祉サービスの適切な利用方法が情報としていきわたっていないことは問題でした。介護事業所は、「ホームヘルパーは家政婦ではない」、「本人ができない部分を支援する」という大前提を介護者へ適切に伝えなくてはならないのです。

ケアマネジャーや介護事業所が福祉サービスを利用する人にその内容をインフォームド・コンセントしたかどうかが問われます。福祉職員が介護者家族の誤解を解消する努力を怠った結果、「緊張の訪問介護」になっているのかもしれません。

ただ、この記事は「家族もヘルパーもどっちもどっち」というまとめ方はできません。というのも、投稿は、ほぼ「家族」の意見のみで「要介護状態の本人」、「訪問介護に従事している人」の視点がほとんどないからです。

※要介護当事者の投稿は、一件掲載されています。

次回は、福祉サービスの利用に関する一般的な認識と「要介護状態の本人」の視点がない点について論じます。