私たちにはハラスメントを受けない権利があります

医療・福祉

以前、介護職ハラスメントのことをシリーズで論じたことがありますが、また取り上げます。というのも、6月に厚労省から

①「介護現場におけるハラスメント事例集」②「介護現場におけるハラスメントへの対応に関する調査研究事業 報告書」

が出たからです。いろいろな媒体で介護現場でのハラスメント行為が語られるようになりました。これを機に福祉現場でのハラスメント行為がなくなればいいですね。

私が最近聞いている利用者からのハラスメント行為は、じつに悪質なものが多く、厳しく取り締まる必要があると考えています。

福祉サービスの利用は権利ですが、権利の濫用はいけません。私に報告されているハラスメント行為は、「権利の濫用」という言葉では軽すぎるような暴力、脅迫などの犯罪行為が多く、ひどい状況です。

さらに由々しきは、行政の御用学者が利用者からのハラスメントを「サービス事業所の責任」と喧伝していることです。

先日、東京都主催の「社会福祉事業従事者人権研修」というのを受講したのですが、非常に問題のあるものでした。ハラスメントの被害者に追い打ちをかけるようなセカンドレイプ的発言を研修講師が何度もしていたのです。たとえば、ヘルパーに家族分の家事(過剰なサービス)を要求する利用者の行為について講師は、「事業所がサービスの説明を適切にしていない」という役所の常套句を繰り返していました。いまどき「利用者本人のみの支援」という説明をしていない事業所などあるわけがありません。

また、セクハラや暴力を受けた従事者に対して、「認知症等の病気または障害の症状として現われた言動(BPSD等)」は、ハラスメントに当たらない」(厚労省)を持ち出していました。確かに障害から由来する行動であれば、仕方ありませんが、それは事業所の対応というより支援困難ケースとして保険者の行政が深く関与していく事例です。

行政のほうで「ハラスメントを受ける方が悪い」という異常な洗脳を続けるのならば、今回の厚労省の調査研究はまったく意味がないものです。被害者に責任はありません。

先日、精神科医の斎藤環氏の講義を受けたのですが、そこで以下のような指摘がありました。「日本は、いじめやハラスメントの加害者に対しての懲戒が適切になされていない。『加害者も実は被害者だ(いじめっ子が実は深刻な問題を抱えている)』という論理で加害側への懲戒が免除されてしまう。そのことでさまざまなひずみが形成されている。ガキ大将が武勇伝のように語られたり、行政サービスのルール違反をすることが生活の知恵のようにとらえられたりすることは、いい加減にやめるべきでしょう」。

私もまったく同感です。加害者への懲戒がどのようになされるかはまた別の議論として、被害者を貶めるような発言はいかなることがあっても避けなければなりません。なぜなら、私たちには暴力を受けない権利があるからです。そして、被害者を責めることは暴力を肯定し、人権を放棄することです。被害を受けた方には適切なケアと加害者からの謝罪が第一に必要なのです。