いろんな支援ツールがあっても・・・

私の信条

ムツゴロウさんは動物とすぐに親しくなれると言われています。その理由は、単純に相手が動物だからでしょう。相手が人間だったらそうはいきませんね。

経験を積んだ福祉職員が初対面ですべての利用者とすぐに親しくなれるかというと、そういったことはありません。相手は、その人自身の歴史をもっている一個の人間です。動物は、その一生で生活の仕方や特性が類型的です。しかし、人間は個々人でまったく異なる生涯を辿り、生活様式と特性はさまざまです。ですから、どんなに経験豊富な福祉職員でも最初の一カ月くらいはズブの新人職員と同じレベルです。もちろん、経験を積んだ職員のほうがのみ込みが早く、未経験の職員とすぐに大きな差がつくと思いますが。

さて、前置きが長くなりましたが、今回は福祉支援の方法に関して話をします。支援の方法論はいくつもあり、それ自体に有効性があるにもかかわらず、実践できない、する人がいない、という話です。

認知症の支援ツールはいろいろなものが出ています。ツールといってもコンピュータ仕掛けの機械ではありません。大部分が利用者を観察して、BPSD(わからない人はググろう!)の様子を人力でシートに記入し、複数人でそれを評価するという原始的なものです。有名な「ひもときシート」や「プール活動レベル(PAL)」などいろいろな支援手法とその様式が発表されています。それはそれで多くの事例を参照・研究し、練りに練って作成された道具類です。これを用いれば、おそらくBPSDは改善されるでしょう。

ただ、こういった支援シート以前に、一般的にデータ分析を基礎とした実践は当然にして効果があります。なんらかの問題行動があったときにその状況や程度を観察し、定量的に計測したり、傾向性をつかむことで、かなりの割合でいい支援につながります。つまり、いつ、どこで、どのように、どのくらいなどを数値化し、図式化することが実際の社会福祉支援に活きるのです。

難しいことは抜きにして、当然のことですよね。家族が利用者の特性をよく知っているのは、24時間いっしょにいるからです。また私は以前、知的障害を持つ方の通所施設の職員でした。年に1回、2泊3日の宿泊旅行があったのですが、その宿泊後は、支援のレベルが飛躍的に向上した思いがあります。3日間、利用者と寝泊りすれば、いやでも彼らのパラメーターが頭に入ります。どんなときに不安になるか、行動障害を起こすかなどが手に取るようにわかるようになりました。無意識的に支援ツールを用いたような利用者理解ができていたのです。

問題なのは、一体だれが前述した支援ツールを用いて、支援を実践するかです。介護職員? 作業療法士? 相談員? まさか医師がやりますか? みなそれぞれの仕事が忙しいので、「ひもときシート」をやっている暇などないのです。強調したいのは、どんな支援者だって、その利用者の生活歴や特性を適切に把握して、問題行動に関して分析的にかかわることができれば、いい支援が実現する・・・しかし、「私たちにそんな時間はない!」、ということです。

ぎりぎりの人数で介護をやっているなかで利用者ひとり一人と細かくかかわっている時間はありません。それが現実の福祉の現場です。さまざまな支援ツールの存在がむなしく感じられますよ。