「意思決定支援」。という言葉を知っていますか。いま福祉の業界でとても流行っている用語です。今回は、いまなぜ「意思決定支援」が話題になっているかを紹介します。
意思決定支援という考えが現れた背景には3つの文脈があります。一つは、障害者権利条約と障害者総合支援法の文脈、二つめは、成年後見制度利用促進法の流れ、三つめは、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)と身寄りがない人への対応などの関係。これらが背景となって意思決定支援がクローズアップされています。いずれも本人の「意思」が問題になっていて、それぞれ深い歴史と背景をもっています。その概略を説明します。
〔障害者権利条約と障害者総合支援法〕
日本は、2014年に障害者権利条約を批准しました。障害者の固有の尊厳を尊重することを目的とした国際条約です。この条約のスローガンでもある中心思想は、「私たちの事を私たち抜きで決めないで(Nothing About us without us)」という言葉です。つまり当該条約は障害者の意思決定が主軸になっているのです。
条約を受けて障害者総合支援法では、①意思確認は可能だが障害により困難な人へのコミュニケーション支援(意思疎通支援)の制度化が謳われ、②障害により意思確認自体が困難な人への支援の体制整備として厚労省がガイドラインを作成しています。
〔成年後見制度利用促進法〕
成年後見制度の利用の円滑化のために2016年に成年後見制度利用促進法が制定されました。そのメインテーマの一つに「利用者がメリットを実感できる制度・運用の改善」があります。成年後見制度は本人意思の尊重が建前ですが、必ずしもそうはなっていない状況があります。後見人が財産保護を心配するあまり、被後見人(認知症の人など)の自由な消費活動を制限してしまうことや後見人が選任されると社会的身分がはく奪されてしまうことがあります。そうならないよう、たとえ意思確認が不明であっても被後見人自身の意思を尊重し、それを汲み取るという研究が現在、当該法のもと進んでいます。
〔その他(ACP、身元保証など)〕
芸人の小籔千豊氏のポスターが炎上してしまったACP(愛称「人生会議」)。ACPとは、意思能力が低下する場合に備えて、あらかじめ、終末期を含めた今後の医療や介護について話し合うことです。当然にして意思決定が問題となります。
また身寄りがない人が認知症で意思確認が困難になってしまった場合、どうなるのでしょうか。その支援でも意思決定が大切です。たとえば、手術をするときの同意に関して本人の意思確認ができないときは慣習的に親族が行います。しかし、身寄りがない人はだれが同意するのでしょう。厚労省は2019年5月に身寄りがない人の入院等に関するガイドラインを発表しました。ここでも本人の意思決定支援は重要な決め手になっています。
以上、各方面の関心領域が一致しているという事情から医療福祉の現場では意思決定支援が重要キーワードとなっています。今後も何か新たな動きが起こるかもしれず、その展開には目が離せません。