結城康博 著「介護格差」(岩波新書)を読む

医療・福祉

みなさん、もうお読みになりましたか? 淑徳大学の結城教授の「介護格差」(岩波新書)ですよ。これはとても読み応えのある新書です。介護保険の業務に携わっている人であればマストですし、福祉関係者には必読な内容。福祉の仕事に携わっていない方にとっては、チョット難しいところもあります。ただ、専門外の人でも「介護保険サービスって、こんな感じなのか」と概要はわかるはずです。

実は、6年前に江東区に結城教授を招いて、シンポジウムしたことがあります。ちょうどそのときも介護保険の法改正の時期でした(介護保険は3年に1ぺん見直しがある)。結城教授は当時から介護を受ける人のあり方に疑問を投げかけていて、まだ「カスハラ」という言葉は一般的ではありませんでしたが、介護職員が利用者から受けるハラスメント行為を重く受けとめていました。一方で利用者は「支えられ上手」になる必要があることも説いていました。

そんなわけで少しだけ縁のある結城教授です。さて、今回の新書のタイトルに「格差」と入っていますが、格差が中心的な内容ではありません。介護保険の現状確認(最新情報)と今後10年に向けての提言が中心テーマです。なかでも本書のハイライトは後半第7、8章の今年度の介護保険改正と将来的な処方箋を述べている箇所です。なんといっても訪問介護の基本報酬を下げた今回の改正を「失策」と喝破しています。福祉の専門誌でさえ、お上に気を遣ったものが多い中、「御用学者じゃねえんだ!」という攻めのアティテュードがいいっすね。

今回の改正で、介護報酬は1.59%上昇。しかし、それは数字上のマジックです。

大切な部分なので詳しく説明します。介護報酬は、介護保険サービス(54個ある)ですべて金額が違い、各々で改定率が違います。この数字はすべてのサービスの増減率をならしたもの(平均値)です。つまり、「訪問介護は報酬がダウン」⇒「そのかわりグループホームなどではアップ」みたいな感じ。また、この数字には「処遇改善加算」という項目も含まれています。これは介護職員の他産業との給与格差を是正するために設けられた手当みたいなもので職員給与にしか配分されず、事業所の収入には反映されません。今回、1.59%上昇分のうち、約1%が処遇改善加算です。そうすると事業所的には、およそ0.6%しかアップしてないのです。このことは、本書でもよく解説してあるので読みましょう!

結城教授は後半部分で自身の政策提言をかなり具体的に、ラディカルにやっています。とくに、措置制度を復活させるべし、という提言では「自己決定は錦の御旗」として最悪の結果を生んでしまうことに警鐘を鳴らしています。たとえば、自己決定を尊重するがあまり、セルフネグレクトを放置して死亡とかです。「最大限『人権』は守りつつ」、行政の措置制度を再構築すべきだと語っています。この辺りは業界的にもビミョーな部分。でも誤解が生じることを想定して主張しているところもあり、読んでいてハラハラします。

ほかにも、「ケアマネ更新制度を廃止せよ」(そのとおり!)、「ヘルパーを公務員とせよ」(これもそのとおり!)、「介護人材紹介業の手数料に上限を設けよ」(国もちゃんとしろ!)などなど、刺激的な議論が盛りだくさん。福祉関係者にとっては痛快すぎてニヤニヤがとまらない一冊となっています。