家族の思いは反映されません

医療・福祉

「成年後見制度の専門家」を自称しています。その腕前が錆びつかないように最近は勉強会によく出席しています。そこで出会ってしまったのです。アンチ成年後見の人たちに。

ちなみに成年後見制度というのは、認知症などで判断能力が低下してしまった人(本人)に裁判所が「後見人」を選任して、後見人が本人を法律的に守る制度です。2000年から始まりました。

10年くらい前っすかね、成年後見制度を強烈に非難する人たちが現れました。彼らの主張はわりとちゃんとしていて、ダメな制度を廃止するのではなく、「法整備で適切な運用を確保せよ」というものでした。ただ、やっかいなのは、アンチに乗っかって、たいして調べもしてないのにいろんな人が勝手なことを言い始めたことです。

アンチ成年後見の人たちの非難の中でいちばん多いものは「家族の思いが反映されない」です。どういったことか見ていきましょう。

そもそも成年後見制度は家族の思いを反映させる制度ではありません。認知症になった本人の意思を最も価値を置く制度です。そして、後見人には包括的な代理権が与えられます。本人の財産関係、契約関係などに関する一切の権利を後見人が握ることができるということです。

家族や相続人の中には認知症の本人名義の資産をおそらく自分のものだと思っている人もいるでしょう。「どうせ死んだらオレのものになるんだからさ」といった感じです。しかし、法律的には認知症になろうと財産は、本人が生きているかぎり、本人のものなのです。親族や相続人がどうこう言えるものではありません。判断能力が低下した本人の意向を確認できない以上、家族の思いを反映させることは権利侵害です。ましてや、財産を自由にできると思い、つかい込んでしまったら、れっきとした横領です。親族だからといって本人の財産をつかうことは法律的には許されていません。そのため裁判所が後見人を選任して、財産管理や生活上の事務処理を任せることになっているのです。

正確を期すために言いますが家族間だと「親族相盗例」といって、横領罪に問われることがないこともあります。しかし、親族間で紛争がある場合やあまりにも悪質な場合はそうはいきません。たとえば、認知症の親の財産をつかい込んだ子どもがほかのきょうだいから裁判を起こされ、骨肉の争いになってしまうことがあります。認知症になったら金融機関の取引ができなくなってしまいますよね。これは銀行がトラブルに巻き込まれたくないからなのです。

要するに認知症の人の財産を管理できるのは裁判所から選任された成年後見人なのです。そうは言っても後見人の選任が家族関係を破壊してしまうケースもあるっちゃあります。後見人は親族に本人の財産状況を開示する義務はありません。高額な支出をするときは裁判所の許可が必要です。その他にも細かい制限があります。そういうことが理由で親族関係が険悪になったり、後見人と対立してしまうことも実際にあります。

どんなしくみにもメリットとデメリットがあります。制度自体は市民のためにあるものです。うまく使いこなしていきたいですね。