大幅に下がったのは、ヘルパーの給料 ではなく、ヘルパー事業所の収益

医療・福祉

社会保障制度をめぐる議論で、制度の全体像を十分に理解しないまま、個人の思い込みや根拠のあいまいな伝聞が事実として語られる場面をよく目にします。その誤解が別の人に伝わり、不安や怒りを増幅させ、社会保障そのものへの不信感を広げていってしまうことを心配しています。

介護の分野でよくいわれるのが「介護崩壊」という言葉です。人手不足や業務の過重、制度の不備など多くの課題は確かに存在します。しかし、それをもって「崩壊している」と断じるのは現実を正確に捉えているとはいえません。介護従事者はいまも相当数働いており、当然ながら利用者は、とても多いわけです。介護保険制度は自治体が責任主体となる公的制度であり、税と保険料を財源に運営されています。突然、全面的に機能停止するということは考えにくいことです。

医療の現場でも、誤解に基づく批判は多いのです。たとえば、「病院がすぐに退院させてしまう。もっと長く入院させてほしい」という声があります。しかし、慢性的な身体機能の低下があったとしても、医療的な処置が必要なくなれば退院するのは当然なのです。

病院は生活の場ではありません。退院後に在宅介護や施設サービスが必要であれば、介護保険制度を使いながら、本人が生活の再構築に向き合う段階に入るようになります。医療と介護の役割の違いを理解しないままの訴えは、医療従事者にとって見当違いの批判に思えるでしょう。

そして、今回、とくに強調したいのは、訪問介護のことです。みんな「個々のヘルパーの給料が下がったのか」と私に聞きに来ますが、そうではありません。2024年の介護報酬改定で大きく下がってしまったのは、「ヘルパー事業所の収益」です。会社の取り分が大幅減額になってしまったのです。ヘルパー個人の賃金は処遇体制加算の取りやすさや強化もあり、かなりの部分がまかなえています。ちなみに処遇改善加算を経営者がピンハネすることは(報告義務があり)できません。

現在、問題になっている「訪問介護の基本報酬の減額」というのは、ヘルパー個人ではなく、経営者へのダメージなのです。よくよく注意してほしいのは、労働者の問題というより、とくに中小の「経営者の問題」です。減益の影響は、事業所の経営を直撃し、経営基盤を弱体化させることになっています。

事業所には、光熱水費、ヘルパーの研修環境整備、事務運営費など多くの経費があります。とくに頭をかかえているのが、「人材確保(新規採用)の諸経費」です。介護人材が不足している現在、人材紹介会社からの紹介料がヘルパー1人につき約80~100万円となっています。収益が大幅に減少すると、労働環境の整備や新規採用もできません。介護事業所の倒産が最多と報道されていますが、訪問介護に関しては、おそらく撤退(店じまい)する事業所がかなりの数多くに上っていると思います。いま処遇改善加算とは別に、早急な基本報酬アップを要するのです。

いずれにしても、大切なのは、社会保障をどうすれば持続可能な仕組みに近づけるのかを具体的に考えることです。不安を煽る言説の連鎖を断ち切り、現状を嘆くばかりでなく、冷静で建設的な議論を積み重ねていくことが、いま最も求められています。