福祉労働と行政

私の信条

少し前に福祉職員が「ケースワークに埋没」してしまい、制度を変革するという視点を欠いているというお話をしました。今回は、その続きです。もともとの福祉職とはどのような立場であったか、そして今後とるべき方向性を検討していきます。

〔福祉の仕事のうつりかわり〕

もともと福祉の仕事は行政気質があります。介護保険が始まるまでは、福祉サービスは、行政処分として恩恵的に国民に与えられる制度でした(これを「措置制度」といいます)。しかし、2000年の介護保険法の施行によって福祉は、国民と社会福祉事業者の自由契約になりました。行政が「やってあげてるんだ。感謝しろよ」という視点は現在では払拭されていると思います(一部、とくに生活保護行政などには残っている気がしますが)。

そうなってからはや20年、行政は福祉事業を基本的に民間の団体や株式会社に外注しています。「市場原理やコスト意識が福祉の職場に導入された」のようなざっくりした議論もあります。しかし、介護保険サービスと障害福祉サービスの分野に関しては、市場原理というより国の方針に事業所が翻弄されています。猫の目のようにクルクル変わる福祉制度にいかについていけるかが事業所存続の条件となっています。市場原理で福祉サービス事業所が淘汰されているのではなく、現行制度に対応しきれず、経済的に行き詰った事業所がつぶれているのです。

一方でいまだに措置時代と変わらない福祉分野もあります。それは児童福祉です。この分野は、基本的に行政のお金で運営されています。役所の直営事業と言っていいでしょう。

〔公務員に近い?!〕

つまり、福祉の仕事は、いまだに行政気質なのです。介護保険サービスの仕事に従事する職員の給料は、介護保険料と税金が原資となっています。障害福祉サービス・児童福祉の職員の給料は、そのまんま税金です。

税金が給料という点だけ見れば、公務員と同じではないかと思います。しかし、①給料がひどく安い ②労働環境がよくない ③職場の異動がない など公務員とは労働条件がぜんぜん違います。

〔厚生行政の動きを見逃さないように!〕

以上を考えるとに、国・行政の動向さえ的確に把握できれば、ある意味、福祉の世界では生き残っていけます。しかし、これは、国が決定したひどい制度をそのまま受け入れるということではありません。

福祉職員は、自分の労働における処遇に、行政の決定が深くかかわっているということをよく認識する必要があります。行政の意思決定過程を精査して、福祉労働者にとって不利になるような決定がなされてしまう前に声をあげていかなくてはならないのです。利用者の対応はもちろん大切です。しかし、自分の権利をきちんと守ることができない人が利用者の権利を擁護することはできません。労働者として、国・行政に圧力をかけられるように福祉職員が団結し、絆を固くしていかなければなりません。そのうえで福祉行政の動向を丁寧に把握していけば、猫の目制度を乗り切っていくことができるはずです