〔前回までの内容〕
朝日新聞、ヤフーニュースなどで群馬県桐生市の生活保護行政が非難されています。「いまだにこんなことやっているのか・・・」という愚かな水際作戦。申請者への恫喝。そして、ケースワーカー(生活保護の担当者)が「1日千円で生活しろ!」と生活保護受給者に強要していたそうです。
一般社団法人つくろい東京ファンド「桐生市生活保護問題とは何か?全容解明に向けて調査団は新たな要望書提出へ(事件の経緯と記事一覧)」

そんなニュースが流れる中、2025年度から江東区で生活保護を受給する人向けの金銭管理の事業が始まります。
生活保護費はどのようにつかおうと生活保護受給者の自由です。パチンコにつかおうが、競馬につかおうがその人の趣味や娯楽です。とやかくいわれる筋合いはありません。役所が生活保護費のつかいみちを強制することは違法行為なのです。
なぜ「1日千円生活」の強要をしていたのか。桐生市では、金銭管理の事業をNPOに委託して実施していたそうです。果たしてそれが関係しているのでしょうか。
今回は、お金の管理が福祉制度に組み込まれるようになった、いきさつをお話します。
〔そもそものお話〕
発端はお金の管理以前の福祉制度のお話です。1999年までは、現在のような「福祉サービス」といったものは存在しませんでした。「措置制度」といって、介護は、困っている人に対して、行政の判断で与えられるものでした。ヘルパーであれ、老人ホームであれ、市民から申請があれば、どの事業所を利用するか役所が決めていました。
ところが、2000年に制度の変更で介護はすべて「契約」になりました。社会福祉基礎構造改革という社会保障における大きな制度改革があったのです。いわゆる介護保険制度のスタートです。介護保険によって自分の希望で介護をサービスとして選び、役所の判断は関係なく、利用者の意思で契約できるようになったのです。
いままで、恩恵的に与えられていた(「お上がやってあげてるんだ」的な)介護でしたが、利用者が自分の希望で選択して、自由に契約できるようになりました。私たちの意思が福祉サービスにちゃんと反映できる点でよかったと思います。
しかし、これは契約内容をちゃんと理解できて、お金の管理もきちんとできる人の話です。記憶力や判断力に問題のある認知症や知的障がいなどの人は、どのように契約をするのか、どのように利用料を支払うのか、だれが手続きをするのか。判断能力が低下した人への支援の問題が生じたのです。
この問題を解消するため、同じ時期に成年後見制度ができました。判断能力に問題がある人の契約やお金の管理は「成年後見人にお願いする」というわけです。現在に至るまで認知症など判断能力が低下した人の契約と、お金の管理は、成年後見人が担うことになっています。
〔福祉サービスで金銭管理〕
ただ、成年後見制度はハードルが高い。なにせ家庭裁判所を通さなくてはいけません。お金の管理をやってもらうには、裁判所が関わるほどの重い手続きが必要なのです。
そうはいっても認知症の人の数は、爆発的に増加しています。そこで生まれたのが「地域福祉権利擁護事業」です。成年後見制度を利用する一歩手前として、「福祉サービスとして認知症の人のお金の管理を支援しようじゃないか」という制度です。
ちなみに2007年に地域福祉権利擁護事業は「日常生活自立支援事業」に名称変更されました。
〔使い勝手がわるい!・・・ように見える〕
でも、この事業、使いづらいんです。というのも、わざわざ使いづらくしています。
自分の財産をみずからの意思で処分できる権利は、基本的人権として尊重されなければならないものです。普通に考えて、自分のお金を他人に管理されるなんて、いやじゃないですか。第一、お金の管理を他人にゆだねようなんて人がいるのか?!
いるんですよ。浪費じゃなくて、認知症や心の病などが原因で管理しないと生活が行き詰ってしまう人がいるんです。生活困窮の末に金銭管理の支援が必要になるのです。
支援の現場では、認知症の人の財布が小銭でパンパンになっているのをよく見ます。簡単な計算をするのが難しくなり、硬貨で支払うことができなくなってしまうのです。だから買い物のときにお札で支払うことが重なり、釣銭がたまってしまうのです。
このような認知症の人は判断能力が低下している自分の現状を自覚していることもあります。また、家族やケアマネジャーなどが異変に気付くこともあります。そして、金銭管理の支援につながるのです。
とはいえ、だれでも自分の財布を他人に握られるなんてゴメンです。「自分のお金を勝手につかわれてしまうんじゃないか」という誤解・心配を生まないように、日常生活自立支援事業は利用に至るまでの手続きを非常に慎重にしています。利用するには、2重、3重の「本人の意思」の確認作業をします。また詳細な支援計画をつくります。
お金の管理はもちろんのこと、光熱水費、家賃、福祉サービスの利用料などの支払いの支援もします。郵便物の確認も支援メニューに入っています。認知症になると事務作業全般が難しくなることが多いです。
認知症の人が自分の生活困難を自覚し、自らの意思で利用することが日常生活自立支援事業のいちばんの要件なのです。
〔江東区はどうなの?〕
日常生活自立支援事業は全国事業で、だいたい基礎自治体の社会福祉協議会(社協)が実施しています。
江東区の社協はローカルルールで「生活保護の人は利用不可」としています。他自治体にこのようなルールはありません。
私は議員になってから生活保護の人も利用できるように厚生委員会で行政に訴えていました。結局、江東区では、日常生活自立支援事業の対象者に生活保護受給者を含めることはありませんでした。その代わりに今回の生活保護受給者への金銭管理支援事業となったのです。
次回は、生活保護とのかかわりや支援の有効性、ソーシャルワークとの関係を解説します。