江東区では、来年度から生活保護を受給している人のための金銭管理を支援する事業(被保護者金銭管理支援事業)がはじまります。私自身が強く望んでいた事業です。区議会の厚生委員会で何度も主張していたことがようやく認められることになりました。しかし、困ったことに、この事業に対する誤解がとても多いのです。
〔朝日新聞による桐生市の不祥事報道〕
ところで、2月初旬から朝日新聞に「最後の安全網 半減の衝撃」なるタイトルで6回シリーズによる埼玉県桐生市での生活保護行政の不祥事が特集されています。桐生市は10年間で生活保護の利用者が40%も減っているというトンデモな自治体です。その実態は水際作戦。生活保護を窓口相談の段階で申請させないようにすることを、利用の水際でくいとめるという意味合いで「水際作戦」と呼びます。かつてはさまざまな自治体がやっていて問題になっていました。
さらに桐生市は、生活保護費の管理をNPOに委託し、1週間に7千円で生活するよう受給者に強制していたなんてことも書かれています。生活保護で支給されるお金(保護費)は、当然に生活保護の受給者のものです。それをギャンブルに使おうが、浪費しようが自由です。NPOの支援者が保護費を強制的に取り上げて、受給者の意に反して小分けにした定額を渡しているとはいかなることでしょうか。そんなことがこれから江東区でも始まってしまうのでしょうか。
〔じつは背景が深い!〕
ハッキリとさせておきますが、生活保護の受給者に金銭の管理を強制することはありません! 金銭管理は、簡単な話ではないのです。憲法でも定められているとおり、「財産権は不可侵」。生活費の使い方を縛る制度をつくること自体が無理な話なのです。ですから、金銭管理の制度は、基本的に判断能力が低下している人が対象です。浪費癖や借金癖のあるからといっても対象にならないのです。
そして、今回の江東区での金銭管理支援には、それなりの背景があるのです。それを説明するには今回だけでは足りません。シリーズでお話をしていこうと思います。
〔日本初! 金銭管理の福祉サービス〕
1999年になるまで、福祉サービスの中に金銭管理が謳われている事業というのは一つもなかったのです。99年に当時の社会福祉事業法による「地域福祉権利擁護事業」が始まり、それによってはじめて全国的に金銭管理が福祉サービスとして位置づけられました。この事業は、都道府県の社会福祉協議会(社協)が実施主体になり、基礎自治体の社協に現場業務を委託して運営されています。
じつは、私が江東社協の職員になったのも99年。私(まにわ)が江東区でこの事業の担当職員第一号なのです! そのときはまだ事業自体が名ばかりといった感じで、本格実施はされておらず、「とりあえず名前だけ」といった感じでした。しかし、2007年には、本格的にこの事業の専任になりました。そのときは事業名が「日常生活自立支援事業」という現在の名称に変わりました。ちなみに事業の啓発DVDにも出演しています(下の写真参照)。
この事業は、認知症や知的、精神の障がいにより金銭管理に困難のある人に福祉サービスとして、金銭管理を実施するというもの。生活保護であるかどうかは関係ありません。
では、なぜ江東区は、生活保護の人に向けて、金銭管理の事業を始めるようになったのでしょうか。次回以降、地域福祉権利擁護事業の詳しい内容と事例、その後の展開と生活保護との関係、金銭管理とソーシャルワークのあり方などをお話します。