困難ケースに対応できない!

医療・福祉

セルフネグレクト、複雑な経済的虐待・・・困難ケースへの対応。福祉職員みんなの頭を悩ませている課題です。今回は、困難ケース対応について、議論していきましょう。

困難ケースといえば「虐待」。児童虐待防止法に端を発する各種の虐待防止法ができたことが功を奏し、その支援は、非常に洗練されてきていると思います。かつては「このくらいのアザじゃ、虐待とはいえないねー」という相談員もいました(本当)。現在は、やはり虐待通報の概念が明確になったことが大きく影響しています。「(虐待の)疑いの段階」で通報できることが研修などでの周知された結果、虐待の件数は増加しても、防止法成立以前のいい加減な対応はほとんどなくなってきました。

しかしながら、依然として相談員やケアワーカーが困難ケースとして虐待に係る支援に悩んでいるのはなぜでしょうか。

職員は、虐待通報をするときに管理者や経営者のことを気にしてしまう。とくに施設職員。「まずは上司に虐待があることを報告・相談しよう」となるわけです。でも、そおぢゃないんですよ。上司よりも先に役所に通報しなくちゃいけないんです。そして、虐待かどうか判断するのは役所(行政)です。上司に相談したら、そこでその問題自体が潰されてしまうかもしれません。ですから、虐待通報は内部告発と同等になることもあります。施設虐待では通報するときに組織というハードルがあるのです。

また、福祉職員が行政の虐待対応のフローを知らないことも困難ケース感を助長させています。虐待通報の後、役所は、けっこうたくさん義務的な業務が発生します。「通報の受理→事実確認→コアスタッフ会議→・・・」という感じです。こういった行政側の虐待対応フローは研修ではあまり取り上げられません。だから職員からすると「通報したのに役所はちゃんと仕事してるのかよ!」と感じるのです。また、行政が首尾よく虐待対応したとしても、それを関係機関や家族に報告することはありません。守秘事項だからね。しかし、行政は支援機関に対して報告を求めてきます。「そっちは何も教えないくせに情報をくれとは、どういう了見だ!」と怒るのは当然です。要するに、役所があらかじめその後のフローを伝えたり、報告できないことを話しておけばいいのです。でも行政機関が実施する虐待研修は「虐待はダメだぞ」と分かり切った内容ばかりで、役所側の対応や支援機関・事業所への配慮が語られることはほとんどありません。

いずれにしても、児相の体制も強化され、高齢では地域包括の3職種配置、障害は基幹相談センターなどバックアップ体制が整備されてきました。私たち福祉職の専門性の腕の見せ所でもあるのです。そして、かつては支援の対象にならなかった人も、どんどん対象となり、サービスも手厚くなりました。一見、何でもできそうな感じがします。

でも、困難ケースを円滑に解決できるような気がしないのはなぜか。それは仕事が多くなったのに人手が足りないからです。事務や電話対応に追われる現状、私たちが専門性を発揮する余地がありません。そして給料も安い。いまだに福祉職は民間企業と比べ、年収にして50万円近い隔たりがあります。モチベーションも上がらないのです。「地域連携」、「重層的支援体制」など困難ケース対応の方策が国から提示されますが、福祉職員の待遇改善が根本的な課題であると私は考えます。